Assessment, Decision make and Solution 〜薬剤師3.0のあり方へのヒント〜

在宅療養支援薬局研究会第4回シンポジウムの総括

平成23年8月27日に、大阪で在宅療養支援薬局研究会の第4回シンポジウムを開催しました。色々な職種の方が在宅栄養療法をテーマに、ご講演いただき、パネルディスカッションを行いました。100名の事前申込に加え、当日のご参加もあり、運営スタッフ・協賛メーカーの皆様を加えると130名が集う、大変な会になりました。 

 

全体のプログラムを聞き、最後のパネルディスカッション、フロアからのご質問・ご意見を聞きながら、ふと頭にあがってきたことがあったので、当日の最後に、3分ほどでお話しました。

 

その内容にもとづき、さらに考察をしたものをまとめて、皆様とシェアしておきたいと思います。

 


専門職に求められるものは?

エアコンの修理をしてもらう目的は、とにかく「 快適な温度にしてもらう」ということです。
エアコンの修理をしてもらう目的は、とにかく「 快適な温度にしてもらう」ということです。

医療に限らず、私たちが専門職に求めるものは、何でしょうか。私は、解決策の提示だと思います。ちょっと格好良くいうと、solutionとでもいいましょうか。

例えば、エアコンが壊れた、と。電気工事とかエアコン工事の専門職に来てもらって見てもらう。そこで求めているのは、エアコンを直すのか、新しく買い換えた方が良いのかも含めて、とにかく「室温を快適にしてもらう」ためのsolutionを期待しているわけです。

医療職も同じですよね。救急外来に来る人は、たとえばお腹が痛いとか、下痢が止まらないとかそういう問題点を抱えてくるわけで、求めているのはsolution。「何とかしてくれ」というやつです。その具体的な方法は、もう、おまかせしたい、もしくはそこまでいかなくても、いくつか提案してもらって、こっちで決める、という感じでしょうか。

 

正しい解決策を提示するには

では、正しい解決策、すなわち、solutionを提示するには、その専門職は現状を正確に把握しなくてはなりません。エアコンはフィルターがつまってるだけなのか、耐用年数がきているのか、はたまた、電気のブレーカーが落ちているだけなのか。その状態の原因を探り、現状を把握しますよね。これを、またまた格好良く言うと、assessmentということになります。

 

で、assessmentをするためには、知識と技能がいります。エアコンの構造やしくみ、そして、実際にそれを確かめるための様々なテクニック。カバーの外し方も知らなくてはならないし、その後、もうちょっと分解してみて、あやしいと思ったところを確認していき、原因と突き止める。そして、原因がわかって初めて、的確な解決策、すなわちsolutionが提示できるわけですが、この段階では多くの場合、何らかの専門的な物品、具材が必要です。

 

 


医療人ではどうか?

これを医療人に置き換えてみましょう。これからは、これまで以上に医歯薬看連携が重要ですが、医師も、歯科医師も看護師も、かならずsolutionを提供します。そのためにはassessmentをしています。assessmentをするためには、様々な技能と知識がいりますよね。そして、この方法をするということでsolutionを提供する。ここには、決断、すなわち、decision makeが要ります。

歯が痛くなって、歯医者さんに行く。問診があって、口の中を見てもらう。色々と触られる。その上で、説明を受ける。治療方針の提案をうける。じゃ、そうして下さいという。で、実際に、歯科材料を使って治療をしてもらう。そんな感じです。

 

薬剤師はどうか?

で、薬剤師です。もうお気づきですね。そうです、solutionを提供するための知識はてんこ盛りあるわけです。また、物品(=多くの場合に医薬品)も、それこそ売るほどある。

 

しかし、目の前の患者さんを把握、評価する、すなわちassessmentする機会に恵まれていなかった。Physical assessmentはその代表的な例だと思います。医療人としては、Physical assessmentが極めて重要。現状把握、すなわち、先の例だと、なぜ、エアコンが効かないのか、歯が痛むのかということを自分で判断しないと専門職とはならないのです。

 

エアコンの例だと、親方が小僧に「おい。たぶん、○○が詰まってるはずやから、ここをはずして、掃除してみろ」と言う。で、まさにその通りで、小僧さんがかなり器用にやってくれたとしても、顧客は親方にありがとうといいますよね。小僧さんには、心の中でサンキュ、というぐらいかも知れません。

 

薬剤師さんが、患者さんの状態をきちんとassessmentする。そのための技能と知識について、基礎的な部分を身につけるのが薬学教育、磨きに磨いていくのが生涯教育、Continuous Professional Developmentだと思います。

 

もちろん、これらは、医師も歯科医師も看護師も、その他の医療・介護専門職も同じです。そう考えると、6年制薬学教育のコアカリキュラムの内容も、また、違った印象で目に映るかも知れませんね、

 


Assessmentのツールがないと、Solutionは決められない

ところで、solutionを決めるといいつつ、assessmentツールがないと進まないのではないかと思います。それのきっかけが口腔状態のアセスメントシートのことを、シンポジウムでお聞きしたことです。

 

今回の講演では、Eiler先生の口腔内アセスメントシートのお話が出てきました。口腔内の状態を8個の項目にわけ、正常が1点、明らかな異常が3点、その間が2点というもので、最高の状態だと8点、最低だと24点というもので、写真入りのものが紹介され、会場でも配布されていました。

 

私も口腔のことは把握しなくては、と思ってきましたが、実は、このツールのことを知りませんでした。となると、何が起こるかというと「うわ、汚……」ということで、おわるということです。ごめんなさい。「訪問歯科の先生に診てもらってる?」というのが関の山でしょうか。

 

しかし、褥瘡のDESIGN分類もそうですが、assessmentツールが手にあれば、自分の手を動かして評価することができます。そして、その結果を、専門家につないであげることもできますし、医療人にとってのプライマリケアの範疇で、とりあえずのsolutionを提供することもできるでしょう。

 

Assessmentができるようになれば、自然とその原因にも思いが至るようになり、結果的にsolutionが頭にひらめくようになります。solutionには、いくつかの選択肢があるのが通例ですが、その数ある選択肢のなかから、これ!と選ぶ。これをdecision makeと言うのだと思います。

 

で、実際に患者さんにsolutionを提供する際には、知識、技能そして、物品が必要です。

 


薬剤師3.0への移行

ちょっと、まとめましょう。薬剤師2.0の仕事が、医師の処方箋に基づき、正確・迅速に調剤し、服薬指導とともに患者さんにお渡しして、その内容を薬歴に記録する、というものだとすると、これは、親方(医師)に「○○やと思うから△△出しといて」といわれて出している小僧(薬剤師)にすぎない、と見ることもできます。だいぶ過激ですね。すいません。

 

でも、ここには、残念ながらassessmentもdecision makeもsolutionもない。むしろ、医師のsolutionツールとして薬剤師や薬局・薬剤部が機能しているということです。

 

しかし、薬剤師法第一条にも明記されているように、薬剤師はもっとindependentな存在です。自分で、assessmentして、decision makeして、solutionを提供してほしい。このsolutionには、技能、知識、物品が必要ですが、これらを一元的に供給できるのは、薬局・薬剤部の薬剤師です。とくに物品は、医師、看護師にとっては、チーム全体のsolution提供として欠かせないキーポイントです。医師がいくら処方箋書いても、実際に薬がなければ、治療は進まない、つまり、solutionはチームとして提供できていないことになるのですから。

 

すなわち、薬剤師3.0へ移行するには、このAssessment, Decision make and Solutionという3つのポイントを押さえることが必要です。逆にこれを押さえれば、専門職としてきちんとクライアント(患者)と正対する立ち位置に立てるということになります。

 

Assessmentには、問診から始まって、川添先生の体調チェックフローチャートも、栄養評価も、Eiler先生の口腔内アセスメントシートも、DESIGN分類も、各種ガイドラインも、そして、バイタルサインもいろんなものがあるでしょう。患者の状態に応じて、必要なものを活用し、Assesmentすれば良いのです。

 

医師は、種々の検査方法をassessmentのツールとして持っていますが、全例に胃カメラをしたりMRIをしたりしません。それと同じで、必要なツールを使えば良いのです。ただ、バイタルサインは基本データとして必ずとりますけど。

 

で、それらを用いて、solutionの提供に至るわけですが、調剤という技術、薬剤師たる薬学的専門性が屹立している知識、さらには、医薬品(医療用、一般用)、サプリメント、医療材料、衛生材料などの物品の供給が欠かせません。これらのうちいくつかは、この30年で、かなり腕を磨いてきました。あと、残っているのはなにか、浮き彫りになってきていますよね。

 

そして、Decision make。次世代型ともいうべき薬剤師3.0は「薬学的専門性に基づき決断する医療人」であって欲しいと考えていますが、FIPのseven stars pharmacistでも、2項目目はdecision makerです。決断することは専門職の専門職たる所以ともいえるほど大切なことだと思います。

 


新しい地域医療のシステム作りが必要

これらは、最初ゲリラ的に、散発的に、あちこちで行われることでしょう。しかし、それは、いつか全体的な流れへと変貌していくでしょう。そのためには、ハードとしての仕組み作りと、薬剤師職能の客観的評価が必要だと思います。

 

前者については、在宅の認定薬局のような第三者認証が必要でしょうし、後者については、これまた第三者認証をうけた専門薬剤師制度が必要だと思います。公益社団法人薬剤師認定制度認証機構など、その流れは着々と進みつつあります。

 

やっぱり、あとは、実践するだけです。是非、ご一緒に、がんばってみませんか?